相続登記は相続人全員でやるもの?1人でできる場合とできない場合

相続登記は相続人全員でやるもの?1人でできる場合とできない場合

「相続登記は、相続人全員で申請しないといけないのですか?」

相続の手続きを調べている方が、早い段階でぶつかる疑問のひとつです。

先に答えを書きます。登記の申請は、相続人全員でする必要はありません。 不動産を相続する人が、1人で申請できます。

ただし、ここに落とし穴があります。申請は1人でできても、「全員の合意」や「全員の書類」が要る場面があるのです。「全員で申請しなくてよい」ことと、「他の相続人の協力がいらない」ことは、同じ意味ではありません。

この記事では、相続登記を進める3つの方法ごとに、1人でできることと全員の協力が要ることを整理します。あわせて、相続人の1人が反対している、連絡が取れない、といったときの進め方も説明します。

目次

相続登記は1人で申請できる? 3つの方法の違い【早見表】

相続登記は、何を根拠に名義を変えるかによって、3つの方法に分かれます。

① 遺産分割協議にもとづく ② 遺言書にもとづく ③ 法定相続分どおり
申請できる人 不動産を取得する人(1人でも可) 不動産を取得する人(相続人が取得する場合・1人でも可) 相続人の1人から(全員分をまとめて登記)
全員の合意 必要(協議が成立しないと進めません) 不要 不要
他の相続人に必要なもの 実印を押した協議書、印鑑証明書、戸籍 原則なし 住民票と戸籍
名義 取得した人のもの 遺言で決められた人のもの 全員の共有になる
向いている場合 話し合いがまとまったとき 遺言書があるとき 話し合いがまとまらないとき(注意点が多い)

いちばん多いのは、①の遺産分割協議にもとづく登記です。以下、順に説明します。全体の手順は、相続登記はまず何から始める?手続きの流れ5ステップと期間の目安でも説明しています。

① 遺産分割協議にもとづく登記:申請するのは取得する人だけ。ただし全員の実印が要る

遺産分割協議とは、相続人全員で「誰がどの財産を取得するか」を話し合って決めることです。

申請できるのは、不動産を取得する人

話し合いの結果、たとえば長男が実家の土地と建物を取得することになったとします。この場合、長男が1人で申請できます。相続による登記は、権利を取得する人が単独で申請できると、不動産登記法に定められているからです(63条2項)。

ほかの相続人は、法務局へ行く必要も、申請書に名前を書く必要もありません。

他の相続人に必要なのは、協議書への実印と印鑑証明書

申請する人が1人でも、他の相続人の協力が要ります。法務局の登記手続ハンドブックでは、次の書類を求めています。

  • 遺産分割協議書……相続人全員が署名(または記名)し、実印を押します
  • 印鑑証明書……協議に加わった相続人全員の分を1通ずつ
  • 戸籍……亡くなった方の出生から死亡までの戸籍と、相続人全員の戸籍

なお、相続登記で遺産分割協議書に付ける印鑑証明書には、「3か月以内」という期限はありません。

必要書類の全体は、相続登記の必要書類チェックリストをご覧ください。

全員の合意が要るのは「話し合い」の段階

「全員」が必要になるのは、登記の申請ではなく、その前の話し合いです。相続人の1人でも欠けた状態で決めた遺産分割協議は、無効になります。

遠方の相続人がいても、協議書を郵送でやり取りして、各自に署名と実印を押していただく形で進められます。全員が一堂に集まる必要はありません。

② 遺言書があるとき:他の相続人の協力はいりません

遺言書で「この不動産は長男に相続させる」と決められていれば、遺産分割協議そのものが不要です。長男が、遺言書や戸籍などを添えて、1人で申請できます。他の相続人の実印や印鑑証明書は、原則として要りません。

「遺贈する」と書かれている場合も、受け取る人が相続人であれば、令和5年4月1日から受け取る人が単独で申請できます(法務局の案内)。

注意点が2つあります。

  • 自筆の遺言書で、法務局に預けていないものは、家庭裁判所の検認が必要です。封がされている遺言書は、家庭裁判所で開封するまで開けないでください
  • 遺言の書き方や内容によって、必要な書類が変わります。相続が始まったら、まず遺言書があるかどうかを確かめてください

③ 法定相続分どおりの登記:1人でできる。でも、あとで困ることが多い

遺産分割をしないまま、法定相続分どおりに全員の共有として登記する方法もあります。

他の相続人の同意なしに、1人で申請できる

相続人のうちの1人が申請人になって、全員分をまとめて登記できます。法務局の案内でも、複数の相続人のうちの1人が申請人になって申請できるとされています。

ただし、1人で申請できても、書類は全員分が要ります。戸籍は相続人全員の分、住所を示す住民票も相続人全員の分が必要です。他の相続人の住民票も集める手間がかかります。

話し合いがまとまらないときの手段だが、デメリットが大きい

話し合いがまとまらない、連絡が取れない相続人がいる、期限が心配——そうした事情で選ばれる方法ですが、次の点に注意が必要です。

  1. 全員の共有になる……売るとき、建て替えるとき、担保に入れるときに、共有者全員の協力が要ります。次の相続が起きると、共有者がさらに増えます
  2. あとで登記をやり直すことが多い……遺産分割がまとまって、法定相続分と違う分け方になれば、その内容に合わせた登記が改めて必要です。法定相続分より多く取得した人は、遺産分割の日から3年以内に申請しなければなりません。手間も費用も2回かかります
  3. 申請しなかった人には、登記識別情報が届かない……登記識別情報は、権利証にあたる大切なものです。申請人だけに通知されるため、ほかの共有者は、あとで売るときなどに追加の手続きが必要になることがあります
  4. 第三者に主張できなくなるおそれ……遺産分割で法定相続分を超えて取得した分は、登記をしないと第三者に主張できません(民法899条の2)。法定相続分で登記したまま放置すると、他の相続人の債権者に差し押さえられるといったリスクが残ります

なお、法定相続分どおりの登記も相続登記ですので、3年以内に登記をする義務は、これでも果たせます。ただ、その後の遺産分割で名義が変わるなら、もう一度登記をする必要があります。

名義を1人にまとめたいなら、①の遺産分割協議にもとづく登記が基本です。③は、話し合いがつくまでの手段と考えてください。法務省も、遺産分割とは、相続人が全員参加して分け方を決める手続であり、相続人になったら遺産分割協議を行ったうえで相続登記をするよう案内しています。

反対する人・行方が分からない人がいるときは

相続人の1人が協議書に署名してくれない、行方が分からない——このとき、①の遺産分割協議にもとづく登記は進められません。選べる道は3つです。

方法 内容 注意点
相続人申告登記 自分の分の義務を果たすための申出(1人でできます) 名義は変わりません
法定相続分どおりの登記 全員の共有として登記します 上の4つの注意点があります
家庭裁判所の遺産分割調停・審判 裁判所で話し合い、まとまらなければ審判で決まります 時間がかかります。決まった内容にもとづき、取得する人が単独で申請できます

住所を調べても行方が分からない相続人がいる場合は、家庭裁判所で不在者財産管理人を選ぶなどの手続きが必要になります。

また、未成年のお子さんや、判断能力に不安のある方が相続人にいる場合も、家庭裁判所の手続き(特別代理人や成年後見人)が必要になることがあります。早めにご相談ください。

相続人申告登記は1人でできる:ただし名義は変わらない

相続人申告登記は、「自分が相続人です」と法務局に申し出る制度です(令和6年4月1日から)。

  • 特定の相続人が、1人で申し出ることができます(他の相続人から頼まれれば、その人の分もまとめて代理で申し出ることもできます)
  • 期限内に申し出れば、相続登記の義務を果たしたことになります
  • ただし、義務を果たしたとみなされるのは、申し出をした人(代理で申し出てもらった人を含みます)だけです。相続人全員が果たすには、それぞれが申し出る(または代理で申し出てもらう)必要があります
  • 名義は変わりません。 売ったり担保に入れたりするには、別に相続登記が必要です
  • 遺産分割がまとまったあとは、遺産分割の日から3年以内に、その内容にもとづく登記をする必要があります(相続人申告登記では、この義務は果たせません)

法務省のQ&Aには、こんな質問もあります。「亡くなった親が所有していた不動産について、兄と姉が揉めており、遺産分割をしていません。私自身はその不動産を相続する気はないのですが、私にも相続登記の義務があるのでしょうか?」——答えは、あります。遺産分割をしていない間は、全員が法定相続分の割合で取得した状態だからです(相続登記の申請義務化に関するQ&A)。話し合いが長引きそうなときは、期限内に相続人申告登記をしておくと安心です。

期限は?

相続登記は、令和6年4月から義務になっています。

  • 不動産を相続したことを知った日から3年以内に申請します(正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です)
  • 令和6年3月以前に起きた相続は、原則として2027年3月31日までです(不動産を相続したと知ったのが令和6年4月以降なら、知った日から3年以内です)
  • 遺産分割で不動産を取得した場合は、遺産分割の日から3年以内にも、その内容の登記が必要です

詳しくは、相続登記の義務化はいつまで?過料を避ける期限と対処法をご覧ください。

よくある質問

Q. 相続人の1人が協議書に署名してくれません。どうすればよいですか?

署名がそろわないと、①の登記は進められません。まず話し合いを続けつつ、期限が近いときは相続人申告登記で義務を果たしておきます。それでもまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を申し立てる方法があります。

Q. 不動産を取得しない相続人は、何をすればよいですか?

遺産分割協議で決める場合は、遺産分割協議書に署名して実印を押し、印鑑証明書を提出することです。それ以外に、法務局へ行ったり、申請書を書いたりする必要はありません。

Q. 司法書士に頼む場合、他の相続人の委任状は要りますか?

①の場合は、登記を申請する人(不動産を取得する人)からの委任状だけで足ります。ほかの相続人は、協議書への署名と実印・印鑑証明書をそろえていただければ十分です。

Q. 相続人に海外在住の人がいます。協議書はどうすればよいですか?

海外に住んでいて日本に住民登録がない方は、日本の印鑑証明書を取れません。その場合は、現地の日本大使館・領事館で発行される署名証明(サイン証明)を、印鑑証明書の代わりに使うことがあります。書類のやり取りに日数がかかるので、早めに動き出してください。

Q. 相続登記は自分でできますか?

できます。ただし、相続人が複数いて話し合いが必要な場合は、戸籍の収集や協議書の作成で手間がかかります。詳しくは相続登記は自分でできる?費用と手間の違いをご覧ください。費用の内訳は相続登記の費用はいくら?総額の目安と内訳にまとめています。

まとめ:「全員で申請」ではなく「全員の合意」が要る

  • 相続登記の申請は、相続人全員でしなくてかまいません。不動産を取得する人が1人で申請できます
  • ただし、遺産分割協議には全員の合意が必要です。協議書に全員の実印、全員の印鑑証明書を用意します
  • 遺言書で相続人が取得すると決められていれば、他の相続人の協力なしに、その人が1人で申請できます
  • 法定相続分どおりの登記は、他の相続人の同意なしに1人でできますが、共有になる・登記をやり直すことが多く、基本は話し合いがつくまでの手段です
  • 反対する人や行方が分からない人がいるときは、相続人申告登記(1人でできる・名義は変わらない)か、家庭裁判所の調停・審判を検討します
  • 期限は、不動産を相続したと知った日から3年(令和6年3月以前の相続は、原則として2027年3月31日)です

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※本記事は令和8年10月時点の法令・運用に基づきます。手続きは個別の事情や管轄の法務局により異なります。
監修:ルフレ司法書士事務所 司法書士 五十嵐規晴(札幌司法書士会)

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