相続手続きをしなかったらどうなる?放置するリスクやペナルティについて札幌の司法書士が解説
相続手続きを怠ると、どのようなリスクやペナルティが発生するのかご存じでしょうか?相続は一見、他人事のように感じられることもありますが、実際には多くの方が直面する可能性の高い問題です。特に不動産や預金、株式などの資産を放置すると、後々取り返しのつかない状況に陥るリスクが高まります。
本記事では、相続手続きを怠ることによるリスクや具体的な手続きの期限、対策について詳しく解説します。相続問題に早めに対処し、トラブルを回避するためのポイントを確認しておきましょう。
相続手続きをしなかった場合に罰則を受けるケースがある
2024年4月1日以降、相続した不動産の登記申請が義務化されました。これまでは任意だった相続登記ですが、今後は申請を怠ると過料が課されます。
この義務化の背景には、所有者が不明な土地や、所有者が分かっても所在が不明で連絡がつかない土地について、所有者の探索に多大な時間と費用が必要となり、公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まず、民間取引や土地の利活用の阻害原因となったり、土地が管理されず、放置され、隣接する土地への悪影響が発生したりするなど、社会問題化していることがあります。
相続から3年以内に登記をしないと、最大で10万円の過料を科される可能性があるため、不動産を相続した際は速やかな登記手続きが必要です。
相続手続きをしなかった場合に生じるリスク
相続手続きを行わないと、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
- 預金を相続する権利を失う
- 不動産の権利を失う
- 株主の権利を失う
- 借金を相続する
- 遺留分侵害額請求の権利を失う
- 相続税の滞納により税額が膨らむ
- 相続回復請求権や取戻権を失う
- 数次相続や代襲相続が起こる
- 子や孫に迷惑がかかる
- 相続人が認知症になる
- 相続人が行方不明になる
これらのリスクを回避するためには、速やかに相続手続きを行うことが必要です。次に、各リスクについて詳しく見ていきましょう。
預金を相続する権利を失う
相続手続きを行わずに預金口座を放置しておくと、一定期間後に預金を引き出す権利を失う可能性があります。まず、5年間入出金がない状態が続くと、預金の払い戻し請求権が消滅し、引き出しができなくなります。
さらに、相続手続きを10年間放置した場合、口座の残高は預金保険機構に移され、公益活動などに使われる可能性があります。特に高額な預金がある場合は、早めに相続手続きを行い、トラブルを避けることが大切です。
不動産の権利を失う
相続した不動産を長期間放置していると、相続人の一人が勝手に法定相続分で登記をして、その持分を第三者に売却してしまう可能性もなくはありません。この登記がされてしまうと、例えその後に他の相続人が遺産分割協議で不動産の全てを取得することになったとしても、持分を取得した第三者に主張することができませんので、相続人と第三者が不動産を共有することになり、売却のハードルも高くなります。
そのため、相続した不動産がある場合は、早めに登記申請を行い、権利を確実に守ることが重要です。
株主の権利を失う
上場株式を相続した場合、証券会社で名義変更手続きをします。この手続きを怠り長期間放置すると、配当金を受け取ることができなくなるリスクがあります。(上場企業の多くが、定款で配当金の時効を3年または5年と定めているため)
また、相続手続きが完了していない状態では、相続人数人で株式を共有することになります。この状態では勝手に一人が売却することはできませんし、株主権を行使するためには、相続人のうちから権利行使者を選び、その株式会社へと通知する必要があり手間がかかります。
借金を相続する
被相続人の借金は、相続財産の一部となります。相続人は、法定相続分に応じて借金を引き継ぐ必要があり、その額が大きい場合は相続放棄や限定承認を検討することが適切です。
相続放棄を選択する場合、相続人は相続人でなかったことになる手続きを行います。また、限定承認を選択すれば、プラスの財産の範囲内で借金を返済することが可能です。
このいずれの手続きも、相続開始を知った日から3カ月以内に家庭裁判所に申述する必要があり、期限を過ぎると相続放棄や限定承認が認められないため、早めの調査と判断が重要です。
遺留分侵害額請求の権利を失う
遺留分は、相続人が確保する最低限の遺産の割合を指します。兄弟姉妹以外の法定相続人には遺留分が認められており、これを侵害された場合、返還を請求することができます。
遺留分侵害を知ってから1年以内、もしくは相続開始から10年以内に請求しなければ、時効によりその権利を失います。適切な時期に請求することが重要で、遺留分侵害額を計算し、速やかに対応することが求められます。
相続税の滞納により税額が膨らむ
相続税が発生する場合、相続開始を知った日から10カ月以内に相続税の申告と納税を完了しなければなりません。この期限までに遺産分割協議や財産の評価を済ませ、申告書を作成する必要があります。
期限を過ぎると延滞税や無申告加算税が課され、過少申告をしていた場合には過少申告加算税が加算される可能性もあります。納税が遅れると、財産が差し押さえられるリスクもあるため、早めの対応が求められます。 相続税についてのペナルティについてはこちらの記事で解説しています。
相続回復請求権や取戻権を失う
相続権を侵害された場合、相続回復請求権を行使して財産を取り戻すことができますが、この権利には時効があります。侵害を知った日から5年、知らなかった場合でも相続開始から20年で請求権は消滅します。
また、共同相続人の1人が遺産分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、取戻権を行使することができますが、1か月の期限が設けられています。
数次相続や代襲相続が起こる
相続登記を放置すると、次々と相続が発生し、相続人の数が増えて複雑な権利関係が生じる可能性があります。数次相続や代襲相続が発生すると、相続人全員による遺産分割協議が必要となり、手続きに多大な時間と労力がかかることになります。この場合、司法書士に依頼する場合の費用も高くなる傾向にあり、何世代も数次相続が発生しているケースでは、50万円~100万円の司法書士報酬がかかることもあります。
これを避けるためにも、相続登記を早めに完了させることが重要です。
子や孫に迷惑がかかる
相続登記をしないまま放置すると、次世代である子や孫に大きな負担をかけることになります。相続に伴う権利関係が複雑化し、相続手続きが困難になると、彼らが解決に時間と労力を費やすことになり、不要なトラブルが生じる可能性があります。
そのため、自分の代でしっかりと相続手続きを行うことが大切です。
相続人が認知症になる
相続手続きが進まないうちに相続人が認知症になると、遺産分割協議が難航することがあります。原則として認知症の相続人は遺産分割協議をすることができません。そのため、認知症の相続人がいる場合は成年後見人の申立てが必要になりますので、数か月かかることもあります。
成年後見人は、本人(認知症の相続人)に不利になる判断はすることができませんので、遺産分割協議がさらに難しくなる可能性があります。早期に相続手続きを進めておくことで、こうしたトラブルを回避することが重要です。
相続人が行方不明になる
相続手続きを放置すると、相続人の中に行方不明者が出てくるリスクがあります。行方不明者を除いて相続手続きを開始することはできず、不在者がいる場合は家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる必要があります。
家庭裁判所が不在者財産管理人を選任した後、管理人を含めた全相続人で遺産分割協議を行う必要があり、この手続きは時間がかかります。行方不明者がいると、相続全体の進行が滞ることになりますので、速やかな対応が求められます。
相続手続きの種類と期限
相続手続きにはそれぞれ期限があり、適切な時期に手続きを行うことが重要です。以下は、主な手続きの種類とその期限を示します。
- 3カ月以内の手続き:相続放棄・限定承認
- 4カ月以内の手続き:準確定申告
- 10カ月以内の手続き:相続税の申告・納税
- 1年以内の手続き:遺留分侵害額請求
- 3年以内の手続き:相続登記
- 5年以内の手続き:相続回復請求
これらの手続きは、期限を過ぎると権利を失ったり、ペナルティを受けたりする可能性がありますので、注意が必要です。
3カ月以内の手続き:相続放棄・限定承認
相続放棄や限定承認は、相続人が負債の相続を避けるための重要な手続きであり、相続開始を知った日から3カ月以内に行わなければなりません。この手続きにより、相続人は財産とともに被相続人の負債をどのように処理するかを決定します。
- 相続放棄:相続人が財産だけでなく負債もすべて放棄する場合の手続きです。これを行うと、その相続人は最初から相続人でなかったことになります。
- 限定承認:相続人が、相続財産の範囲内でのみ負債を返済することを選ぶ手続きです。ただし、全相続人の同意が必要となるため、手続きには話し合いが不可欠です。
手続きは、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。3カ月という短い期間内に行う必要があるため、相続開始後は速やかに財産と負債の調査を開始し、判断を下す必要があります。
4カ月以内の手続き:準確定申告
被相続人が亡くなった年の所得に対して行う準確定申告は、相続人が代わりに行う重要な手続きです。この手続きは、相続開始を知った日から4カ月以内に完了しなければなりません。
- 対象となるケース:被相続人が事業所得を得ていた場合や、給与所得が2,000万円以上ある場合に、準確定申告が必要です。
- 申告が不要なケース:所得が400万円以下の公的年金のみで、既に源泉徴収されている場合は申告の必要はありません。
申告先は被相続人の最後の住所地を管轄する税務署です。期限を過ぎると延滞税が発生する可能性があるため、相続人は期限内に速やかに申告を行う必要があります。複数の相続人がいる場合、誰が申告を担当するか事前に確認しておくとスムーズです。
10カ月以内の手続き:相続税の申告・納税
相続税の申告および納税は、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内に行う必要があります。相続財産が一定の基礎控除額を超える場合、相続税が課されます。この手続きを怠ると、延滞税や加算税が発生するため、早めの対応が必要です。
- 申告期限と場所:申告は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に行います。
- 期限を過ぎた場合のリスク:期限内に申告をしなければ、延滞税が発生し、さらに無申告加算税が加算されます。悪質な場合には重加算税が発生することもあります。
相続税の申告には、財産の調査・評価、遺産分割協議の完了、そして申告書の作成が必要です。特に財産評価が難しい場合や、複雑な相続内容の場合は、税理士に早めに相談することが推奨されます。手続きに時間がかかるため、相続開始後すぐに準備を始めることが重要です。
1年以内の手続き:遺留分侵害額請求
遺留分侵害額請求は、遺留分を侵害された相続人が、正当な権利を守るために行使できる請求です。この請求権を行使する期限は、相続開始および遺留分侵害を知った日から1年以内とされています。また、相続開始の日から10年が経過すると、この権利は消滅します。
- 請求方法:遺留分を侵害された場合、内容証明郵便を用いて正式に請求意思を伝えることが推奨されます。口頭での請求は、後からトラブルを引き起こすリスクがあるため、文書での請求が望ましいです。
- 消滅時効の注意点:内容証明郵便を送ることで時効の完成が猶予され、その後6カ月以内に和解を成立させるか、民事訴訟の提起を検討する必要があります。
遺留分侵害額請求は、トラブルに発展する可能性があるため、慎重に対応する必要があります。専門家の助言を受けながら進めることが推奨されます。
3年以内の手続き:相続登記
令和6年4月1日以降に施行される法律により、不動産を相続した相続人は、3年以内に相続登記を行うことが義務化されています。これを怠ると罰則が科される可能性があるため、迅速な対応が必要です。
- 申請期限:原則として、被相続人が亡くなってから3年以内に遺産分割協議を行い登記を申請する必要があります。
- 違反時の罰則:登記義務を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
特に不動産が絡む相続は、所有権の移転手続きが法的に認められるためにも重要です。早めに専門家に相談し、確実に手続きを進めましょう。
5年以内の手続き:相続回復請求
相続回復請求は、相続権を侵害された相続人が権利を回復するための手続きで、侵害を知った日から5年以内に行う必要があります。相続権を不当に奪われた場合、この権利を使って正当な相続を回復します。
- 権利の消滅期限:相続開始から20年が経過すると、相続権が自動的に消滅します。このため、相続回復請求は早めに対応することが重要です。
- 相続人の確認:相続人の戸籍確認を通じて、全員が正当な権利を持っているかを確認し、遺産分割協議に正当な相続人だけが参加するよう徹底する必要があります。
この手続きは、相続権を守るために非常に重要です。特に、偽って相続に参加する人がいた場合や、相続人に廃除や欠格事由がある場合は、慎重に確認し対応することが求められます。
まとめ
相続手続きを怠ることには多くのリスクが伴います。預金や不動産、株式などの権利を失う可能性や、相続税の滞納による経済的な負担、さらには次世代に迷惑をかけることになりかねません。各種手続きには厳格な期限が設定されているため、早めの対応が必要です。
相続に関する知識を持ち、適切な手続きを行うことで、将来的なトラブルを避けることができます。自身の権利を守るためにも、相続手続きは早めに行い、必要に応じて専門家に相談することが大切です。
ルフレ司法書士事務所では、相続登記をはじめ、相続放棄、遺産分割協議など、相続に関する様々な業務を扱っております。司法書士が、迅速丁寧にお客様の状況に合わせた最適なサポートを提供いたします。また、ご希望に応じて相続に強い弁護士さんや相続税の申告専門の税理士さんを紹介しております。
相続手続きでお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。