亡くなった親の借金も引き継ぐの?相続人が知っておくべき注意点
相続人は相続によって財産を引き継ぎますが、同時に債務(借金)も引き引き継ぐことになります。本記事では、被相続人の債務(借金)を引き継いだ相続人の責任について解説していきます。
相続とは何か
相続とは、亡くなった人(被相続人)の財産や権利・義務を、相続人が引き継ぐことをいいます。不動産や預貯金、株式といった「プラスの財産」だけではなく、借入金や未払い金などの「マイナスの財産」も含まれます。
上記のように、相続にはマイナスの財産の引き継ぎも含まれるため、相続放棄(全ての財産と保留を放棄する)や限定承認の選択肢があり、状況に応じて適切な方法を選択できます。※相続放棄についてはこちらで詳しく解説しています。
借金の相続について
借金のような可分債務(分割することが可能な債務)は、相続開始と同時に相続分に応じて当然に分割されます。また、自動車の引渡す債務のような不可分債務(分割できない債務)は、相続人全員に不可分的に帰属します。
なお、被相続人が連帯債務者であった場合は、各相続人が法定相続分に応じて債務を承継し、その範囲で他の連帯債務者(被相続人以外の連帯債務者)とともに連帯債務を負うことになります。※法定相続分についてはこちらで詳しく解説しています。
以上が原則ですが、相続人間で法定相続分とは異なる割合で、債務の負担者又は負担割合を決めることも可能です。
例えば、特定の相続人が他の相続人より優先的に相続財産を承継する場合に、当該相続人が債務をすべて承継する場合などが典型的です。
もっとも、相続人間で債務の負担を法定相続分と異なる割合で合意したとしても、債権者の承諾を得ない限り、債権者に対抗できません。
相続によって引き継がれる債務
被相続人が残した債務は、原則として全て相続人に引き継がれます。例えば、以下のようなものがあります。
①借金・・・銀行や消費者金融からの借入、カード未支払い分等。
②保証債務・・・被相続人が保証人の場合、原則的には相続の対象になり、相続人が保証人の地位を引き継ぎます。ただし、身元保証人の地位は相続の対象になりません。
③税金や保険料・・・未支払いの税金や保険料は、相続の対象になります。
④医療費・・・被相続人が亡くなる直前に入院していた場合、未支払いの医療費は相続の対象になります。
⑤介護費用・・・被相続人が介護施設に入所していた場合、未支払いの介護費用は相続の対象になります。
相続によって引き継がれない債務
原則は上記のように相続によって引き継がれますが、下記のように、引き継がれないものもあります。
①身元保証人の地位・・例えば親族が就職したときに亡くなった方(被相続人)が保証人になることがあるかと思いますが、相続の対象外ですので、相続人が代わりに保証人になることはありません。
②養育費の支払い・・例えば亡くなった父に前婚の妻との間に子供がいて、養育費を支払っていた場合でも、相続に対象外ですので、相続人が支払う必要はありません。ただし、父の死亡前に未支払いの養育費があれば、こちらは相続の対象になります。
亡くなった方(被相続人)の債務を調べる
どのようなものが相続の対象か分かったところで、予想外の債務を負担することがないように、債務の調査をします。
債務の調査は、相続放棄をする場合、3か月の期限があるため、迅速かつ抜け漏れなく行う必要があります。漏れがあると、予想外の債務が後になって請求される可能性があるため、注意深く確認することが重要です。
自宅にある書類や通帳を確認する
支払いに関する郵便物や書類がないか、自宅の中をしっかりと確認します。手帳やカレンダーに書いて記録を残している場合もありますし、契約書や借用書が保管されていることもあります。さらに、亡くなった後しばらくの間は、郵便物を注意深く確認することが大切です。
また、通帳やインターネットで、金融機関の口座の取引明細を確認することでも、債務が確認できる場合もあります。金融機関の口座から、振り込みや引き落としがあった場合、借金やローンの返済履歴が残ります。これを手掛かりに、取引明細に記載された返済先に問い合わせることで、債務の詳細を確認することが可能です。
信用情報機関を利用する
詳しくは「親の借金を知らずに相続しないために~亡くなった方の信用情報調査」で解説しますが、個人のクレジットカードやローンの申し込み状況などの個人情報は、信用情報機関に登録されていますので、問い合わせることで借金を調べることができます。また、亡くなった方が連帯保証人になっている場合は、その事実も確認することができます。
なお、信用情報の開示請求は、法定相続人やその委任を受けた弁護士や司法書士などの代理人のみが行えます。
不動産の登記簿を確認する
登記簿に抵当権の記載がある場合、住宅ローンが残っている可能性があります。返済は終わっているが、抵当権を抹消し忘れていることも考えられますので、登記簿に記載されている金融機関等の抵当権者に問い合わせしてみましょう。※住宅ローンが残っている場合でも、団体信用生命保険に加入している場合、返済する必要はありませんので、併せて確認してみましょう。
自動車の車検証を確認する
車検証の所有者の欄がディーラーや信販会社になっていれば、自動車ローンが残っている可能性があります。
借金を相続しない方法
借金を相続しない方法として、代表的なものとして相続放棄もありますが、他にも方法がありますので、下記で解説します。
遺産分割協議
法定相続人全員で協議をして、自らの相続分の全部または一部を放棄して、借金を他の相続人に引き取ってもらう方法があります。
メリットは、家庭裁判所の手続きが不要になり、簡単に借金を相続しないことができます。借金よりも資産が多い場合は、法定相続人の一人に全て相続してもらい、その代わりにローンや借金の返済の手続きも全て行ってもらうことは、割と見受けられます。
デメリットは、相続人全員で遺産分割協議で決めても、これを債権者が認めてくれない場合、結局、法相続分に応じて借金を負担しなければならなくなり、意味がなくなる可能性があるということです。事前の債権者との調整が重要かと思います。
なお、遺産分割協議で財産を相続しないと決めることを、相続放棄と勘違いされている方が多い為、注意が必要です。あくまでも遺産分割協議の中で、自らの相続分を放棄することを決めただけですので、家庭裁判所に申述する相続放棄と違い、亡くなった方(被相続人)に借金があれば、原則として負担しなければなりません。
相続放棄
借金を相続しない方法として、一番よく知られているのは、こちらの相続放棄になります。
相続放棄の効果として、その相続人は遺産を引き継ぐことができなくなり、相続人が負うことになる債務や責任も免除されます。
相続放棄をする場合は、亡くなった方(被相続人)の最後の住所地の家庭裁判所に申述する必要があります。相続放棄をするための期限は、相続開始を知ってから3か月以内となります。この手続は各相続人が単独で行うことができます。※相続放棄についてはこちらで詳しく解説しています。
限定承認
限定承認とは、相続によって得た財産を限度として、借金を引き継ぐ相続の方法です。プラスの財産を確定させてからマイナスの財産を相続するため、マイナスの財産が少なければ遺産が残ります。マイナスの財産が多い場合は、プラスの財産を限度としてマイナスの財産を相続するので、プラスマイナスゼロになります。
こちらも相続放棄と同様に家庭裁判所に申述する必要がありますが、相続放棄との違うところは、相続人全員で手続きしなければなりません。
まとめ
被相続人の債務は、相続人に引き継がれることになりますが、保証債務など、後になって判明する債務もあるかと思います。相続開始から3ヶ月が経過していて、相続放棄ができるかどうか分からない場合や、判断に迷った場合は、弁護士や司法書士等の専門家に相談することをお勧めします。
ルフレ司法書士事務所では、相続登記をはじめ、相続放棄、遺産分割協議など、相続に関する様々な業務を扱っております。司法書士が、迅速丁寧にお客様の状況に合わせた最適なサポートを提供いたします。また、相続に強い弁護士さんや相続税の申告専門の税理士さんを紹介することもできます。
相続手続きでお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
FAQ
Q1 相続財産が債務超過の場合、相続人はどうなりますか?
・相続財産が債務超過の場合であっても、相続放棄や限定承認をした場合を除き、相続人が債務の支払いをしなければなりません。
Q2 相続人が支払った債務は、後で他の相続人から請求されることはありますか?
・相続人の1人が債務を全額支払った場合、相続分に応じて、他の相続人に対して求償権を行使することができます。(例)相続人がABCの3人(相続分は同じ)で相続債務が3000万円であった。Aさんが3000万円全額を債権者に支払った場合、AさんはBさんCさんにそれぞれ1000万円ずつ自己への弁済を求めることができます。
Q3 相続人が借金の存在を知らなかった場合、責任を負うことになりますか?
・相続人が借金の存在を知らなかった場合でも、被相続人の債務は相続人に引き継がれますので、原則的に責任を負うことになります。ですが、この場合、3ヶ月経過後であっても、相続放棄ができる可能性がありますので、早めに専門家に相談することをお勧めします。
Q4 相続財産から債務を支払った場合、その分は相続税の対象になりますか?
・相続税の計算は、プラスの財産から債務等のマイナスの財産を差し引いて計算します。これを債務控除といい、相続財産から債務を支払った場合、原則的に債務控除の対象になります。詳しくお知りになりたい場合は、税理士さんをご紹介しますので、気軽にお問い合わせください。