相続トラブルを防ぐ!遺言書の基礎知識と正しい作り方ガイド
遺言書は、残されたご家族に遺言者の意思を残す為に重要な文書です。遺言書と言う名前はよく聞くけど、実際どのように書いて良いのか分からない方が多いと思います。この記事では、遺言書に関する基本的な知識から、作成のポイントまでを解説します。
遺言書とは何ですか?
遺言書は、亡くなった方(被相続人)の意思を尊重する制度で、法律に定めれた方式に従って書く必要があります。生前に遺言書を作成することで、自分の意思を明確にすることができ、遺産を誰にどのように配分するかを自由に定めることができます。
実際の相続手続きでは、遺言書を提出して、その記載内容に基づいて進めることになりますので、とても重要な書類です。
遺言書で出来ること
遺言書で出来ることは下記のとおりです。
相続分の指定
相続人全員の相続分を指定する場合だけでなく,相続人の一部の相続分を指定することもできます。この相続分の指定を第三者に委託することもできます。(例)妻、長男、長女の相続分は各1/3とする。
遺産分割方法の指定
遺産分割方法は、「現物分割 」「換価分割 」「代償分割」の3種類があり、この分割方法を遺言で指定することができます。上記の相続分の指定を含んだ内容にすることもできます。
現物分割・・・不動産などの遺産を現金に換えることなく、そのまま相続する遺産分割方法 (例)不動産Aは妻が、不動産Bは長男が、預貯金は長女が相続する。
換価分割・・・不動産などの遺産を売却し、得られた売却金を法定相続人の間で分配する方法 (例)不動産を売却した利益4000万円を妻2000万円、長男と長女がそれぞれ1000万円相続する。
代償分割・・・相続人の1人が財産を取得して、他の相続人には代償として金銭又は固有財産を代わりに贈与する遺産分割方法 (例)長男が遺産の不動産を相続して、長男の預貯金から長女と次男にそれぞれ2000万円ずつ渡す。
遺 贈
被相続人が遺言によって、法定相続人以外に自己の財産を与えることを遺贈と言います。
例えば、子供が生きている場合、孫は法定相続人ではありませんが、その孫に財産を残すことも可能です。
法人や胎児を受遺者とする遺贈も有効です。
遺言執行者の指定・指定の委託
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために相続手続きや他の事務処理をする人のことを言います。
この遺言執行者を遺言によって指定する事や、指定を第三者に委託することもできます。
相続人の1人や法人であっても、遺言執行者になることができますが、未成年者や破産者はなることができません。
未成年後見人及び未成年後見監督人の指定
未成年者の子供がいる場合であって、ご自身が亡くなることにより、子供に親権者がいなくなる場合は、遺言で未成年後見人を指定することができます。また、未成年後見人の事務を監督させるため、未成年後見監督人を指定することもできます。
遺産分割の禁止
相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の全部又は一部の遺産分割を禁止することができます。
遺産分割を禁止する代表的な例として挙げられるのが、相続人の中に未成年者がいる場合です。通常、未成年者は遺産分割協議に参加できず、特別代理人を選任することになります。その為、相続人が成人した時に本人を含めて遺産分割協議を行う為に、遺産分割を禁止することがあります。
担保責任の指定・免除
相続財産について想定していない欠陥があり、価値が低かった場合、欠陥がある相続財産を承継した相続人は、他の共同相続人に対して損害賠償請求をすることができます。請求された相続人は、相続分に応じて責任を負わなくてはいけません。これを相続人の担保責任と言います。
被相続人は、遺言によってこの担保責任の内容を指定したり、特定の相続人の責任の免除をすることができます。
受遺者又は受贈者の負担額
遺留分侵害額請求をされた場合は、まずは受遺者が先に負担し、その後に受贈者が負担する事になります。
受遺者が複数いる場合や、同時にされた受贈者が複数いる場合は、その価額の割合に応じて負担額が決定するのが原則ですが、この受遺者や受贈者が複数いる場合の負担額についても、遺言で定める事ができます。
遺留分侵害額請求とは・・法定相続人が遺留分を侵害された場合、贈与又は遺贈を受けた者に対し、その侵害額に相当する金銭の支払を請求すること。(例)相続財産2000万円で相続人が妻と子1人の場合、2000万円全部を相続した妻に対して、子は500万円請求することができます。
遺言書を作成することのメリットは何ですか?
遺言書を作成することには、以下のようなメリットがあります。
遺産分割協議の必要がなくなる
遺言書がない場合、相続人は全員で遺産分割協議書を作成し、相続手続きの際に使用することになります。
相続人が多くなれば、時間がかかり協議内容がまとまらないことも考えられます。
遺言書が存在する場合、基本的には遺言書の内容で相続手続きを進めることになる為、その手間を省くことができます。
また、遺産分割協議をする場合よりも、相続手続きに必要な書類が少なくて済むメリットもあります。
法定相続人以外に財産を残すことができる
例えば内縁の妻や、長男の嫁、孫は法定相続人ではありませんが、遺贈をすることで財産を残すことができます。
被相続人の財産を把握することができる
遺言者は、亡くなった後に相続人が困らないように、遺言書に財産を漏れなく記載しておくことで、相続人が行う相続手続きが格段に楽になります。
遺言書に添付する財産目録に、金融機関名や口座番号、不動産の所在や株等の有価証券の情報を漏れなく書く事が重要です。
遺言書の作成方法
遺言書を作成するためには、以下のような手順が必要です。
誰にどの財産をどれくらい残したいか決める
まず、誰にどの財産をどれくらい残したいか決めます。そして、渡したい相手が相続人か相続人以外かも確認します。(遺言書に書く文言が変わってくる為です。)
財産を確認する
遺言書に漏れなく財産を記載する為に、財産を確認します。不動産の場合、非課税の私道は納税通知書にも記載されておらず、漏れてしまう事があります。
せっかく遺言書を作成しても、漏れがあっては相続手続きで使用できないこともありますので、登記簿謄本、不動産の権利証、名寄帳を取得して慎重に調査をします。
遺言書の方式を決める
①自筆証書遺言 ②公正証書遺言 ③秘密証書遺言の3種類の方式がありますが、③は利用される事がほとんどない為、①②から選択する事になることが多いと思います。なお、遺言を残す方の余命が僅かで①自筆証書遺言や②公正証書遺言が難しい場合、④危急時遺言を残す方法もあります。
①自筆証書遺言
自筆証書遺言とは,遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を自書し、押印して作成する方式の遺言をいいます。上記の要件が1つでも欠けると、遺言は無効となる為、注意が必要ですが、財産目録についてはプリンターで印刷したものでも問題ありません。
なお、2020年から法務局による遺言書の保管制度が始まりました。法務省:自筆証書遺言書保管制度について
自筆証書遺言書保管制度のメリット |
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1. 相続開始後の家庭裁判所における検認が不要 |
2. 遺言書の紛失のおそれがなくなる |
3. 遺言書の破棄,隠匿,改ざん等を防ぐことができる。 |
4. 法務局において遺言書を閲覧したり,遺言書情報証明書の交付が受けられる。 |
5. 閲覧請求したり、遺言者が亡くなった時に、通知を受ける事ができる。 |
②公正証書遺言
公正証書遺言とは、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書による遺言書を作成する方式の遺言をいいます。
公正証書遺言については、「公正証書遺言作成を司法書士に依頼する場合の費用は?専門家ごとの違いも解説」で詳しく解説しています。
メリット |
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1. 相続開始後の家庭裁判所における検認が不要 |
2. 遺言書の紛失のおそれがなくなる |
3. 遺言書の破棄,隠匿,改ざん等を防ぐことができる。 |
4. 不備による無効のおそれがほとんどない |
5. 公証人が作成する為、内容や解釈について紛争が起こりにくい |
デメリット |
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1. 費用や時間(※1)がかる。 |
2. 内容の訂正や変更にも費用や時間がかかる |
3. 公証人や証人に遺言の内容を知られてしまう |
③秘密証書遺言
秘密証書遺言とは,遺言者が遺言内容を秘密にして遺言書を作成した上で,封印した遺言証書の存在を明らかにすることを目的として行われる遺言のことをいいます。
費用と時間がかかり、検認手続きが必要になる為、実際にはあまり利用されていない制度です。
④危急時遺言
危急時遺言は、病気やけがなどの事情により死亡の危機が迫っている場合に利用できます。証人が3人必要で、20日以内に家庭裁判所に遺言確認の申立てをする必要がある等の要件はありますが、遺言を残す最終手段として有効な制度です。
遺言書の注意点
遺言書を作成する際には、以下の点に注意が必要です。
決められた方式に従って作成する
自筆証書遺言は,遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を自書し、押印して作成する方式の遺言をいい、要件が1つでも欠けると、遺言は無効となる為、注意が必要です。その為、専門家のアドバイスを受ける事が望ましいです。
内容や解釈に疑義が生じないようにする
読む人によって違う解釈ができる内容の場合、紛争が起こる可能性があります。曖昧な表現は避け、適切な内容で残すようにしましょう。
遺留分を考慮した内容にする
他の相続人の遺留分を侵害するときには、遺留分侵害額請求をされる可能性があります。対象の財産を他の相続人の遺留分を侵害しない程度に留めておく、生前に遺留分侵害額相当の対価を支払って、遺留分を放棄してもらう等の対策が必要です。
まとめ
大切なご家族がご自身の相続で揉めて欲しくないと考える方や、残された方の相続手続きの負担を少しでも減らしたいと考えている方は、遺言書を作成することはとても有効です。
また、遺言書を作成する際には、正確に作成することが重要ですので、専門家のアドバイスを求めることが望ましいです。残されたご家族が円満な相続をできるように、遺言書作成の参考にしていただけたら幸いです。
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