相続手続きの平均期間は?遺産がいつもらえるのか、必要な手続きも解説
相続手続きは、故人が残した財産を相続人が受け取るための重要なプロセスです。しかし、その手続きは単純ではなく、多くのステップを経る必要があります。その結果、相続手続きが完了するまでの期間は、ケースによって大きく異なります。
この記事では、相続手続きにかかる平均的な期間や、その内訳について詳しく解説していきます。また、相続手続きを早く進めるための制度や、注意すべき点についても触れていきます。
遺産相続手続き完了までの平均期間は約2か月~6か月
相続手続きが完了するまでの平均期間は、一般的に約2か月~6か月とされています。この期間内には、さまざまな手続きを行う必要があり、相続財産の種類や量が多い場合は、さらに時間がかかることもあります。
スムーズに進めば、遺産を受け取るまでに1か月かからずに済むケースもありますが、遺産分割の協議が難航するなどの問題が生じると、数年かかることもあります。基本的には、全ての手続きが完了するまで、相続人は遺産を受け取ることができません。相続財産の種類が多い場合、手続きも多くなり、相続人一人で行うと時間が余計にかかります。
相続手続き完了までにかかる期間の内訳
相続手続きにはいくつかのステップがあり、それぞれにかかる時間が異なります。主な手続きは以下の通りです。
- 相続人の調査
- 相続財産の調査
- 遺産分割協議
- 預貯金の名義変更・解約
- 不動産の名義変更
- 自動車の名義変更
- 有価証券口座の移管
これらの手続きが順調に進めば、全体の流れも比較的スムーズに進みますが、遺産分割協議や不動産の名義変更が遅れると、手続き全体の期間が延びることがあります。
相続人の調査
相続人の調査は、相続手続きの第一歩であり、相続人全員を確定するために必要なステップです。調査には、被相続人(故人)の出生から死亡までの戸籍を取得し、全ての相続人を特定する作業が含まれます。
以前は、被相続人が転居を繰り返していた場合や、異なる地域に本籍地がある場合は、郵送で戸籍を取得する必要があったため、時間がかかりました。
現在は、令和6年3月1日から戸籍の広域交付の制度が始まり、配偶者、直系尊属(父母、祖父母など)、直系卑属(子、孫など)であれば、最寄りの市区町村役場で、一括で被相続人(故人)の出生から死亡までの戸籍を取得することができるようになりましたので、早ければ当日に全て交付されます。
相続財産の調査
相続財産の調査は、相続人の調査と並行して行うことが一般的です。調査では、被相続人の財産内容を把握し、相続する資産や負債の全体像を明確にします。具体的には、故人の通帳や郵便物を確認したり、信用情報機関に情報開示請求をして借金の確認をします。
また、遺品整理を通じて相続財産を把握する場合もあります。被相続人が遺言書やエンディングノート等で財産を明確にしてくれている場合は、簡単に相続財産を把握できますが、遺言書やエンディングノート等がなく、財産の種類が多い場合は、調査に時間がかかる傾向にあります。
遺産分割協議
遺産分割協議は、相続手続きの中でも最も重要で、時間がかかる可能性のあるステップです。相続人全員が協議に参加し、遺産の分割方法について合意する必要があります。相続人間で意見が一致していれば、協議は1日で終わることもありますが、意見の違いがある場合は数カ月以上かかることがあります。
協議が長引く要因としては、相続人の日程調整や、遺産の分け方についての意見の対立などが考えられます。相続人全員が合意しない限り、遺産分割協議は成立しないため、慎重に進める必要があります。
預貯金の名義変更・解約
預貯金の名義変更や解約には、申請から2週間~1か月ほどかかることが一般的です。また、預貯金の中に出資金などの特別な資産が含まれている場合、その解約手続きにも時間がかかることがあります。
申請をスムーズに進めるためには、必要な書類を迅速に揃えることが重要です。預貯金の払い出しには、遺言書か遺産分割協議書が必要になりますので、事前に相続人間で合意を得ておくことが手続きの円滑化に繋がります。
不動産の名義変更
不動産の名義変更は、2024年4月1日から相続登記が義務化されたため、相続手続きにおいて必須のステップとなります。不動産の相続登記には、必要書類の準備が必要で、遺言書又は遺産分割協議書、被相続人の出生から死亡までの戸籍などが求められます。
名義変更の手続きは、不動産の所在地を管轄する法務局に書類を提出し、登記申請を行うことで進められます。登記が完了すると、登記識別情報通知が法務局(又は司法書士)から不動産を取得した相続人に届きます。
名義変更が完了すると、その不動産は相続人が自由に売却することが可能になります。不動産の相続登記は、登記が完了するまで1~3週間程度かかりますが、法務局の繁忙期であったり、必要書類や申請に不備がある場合はさらに時間がかかることがあります。
自動車の名義変更
自動車を相続する場合も、名義変更が必要です。自動車の名義変更は、書類が揃っている場合、申請当日に完了します。この手続きには、車検証や戸籍謄本、印鑑証明書などの書類が必要となります。手続きは、陸運局(運輸局)で行い、相続人の名義に変更された車検証が発行されれば完了です。
手続きが完了すれば、その自動車は相続人の所有物となり、自由に売却することができます。名義変更は15日以内に申請する必要があるため、遺産分割協議で誰が相続するか決まった後、早めに手続きを進めることが大切です。
有価証券口座の移管
有価証券の相続も手続きを必要とします。例えば上場会社の株式を相続する場合、その口座の名義変更や移管手続きを行う必要があり、この手続きには約1カ月かかります。相続人が証券口座を持っていない場合は、新たに口座を開設する必要があり、その分の時間も加わります。
有価証券の名義が相続人に変更され、証券が相続人の口座に移管されれば、相続手続きは完了です。その後、相続人は有価証券を売却したり、運用を続けたりすることが可能になります。
相続手続き完了までの期間や流れが変わる4つのケース
相続手続きの流れや期間は、遺言書の有無やその内容、相続人の数によって大きく変わります。以下に、相続手続きの進行に影響を与える4つのケースを挙げ、その詳細について解説します。
- 検認が不要な遺言書がある
- 検認が必要な遺言書がある
- 遺言書がなく相続人が一人
- 遺言書がなく相続人が複数人
これらのケースによって、相続手続きの進行にどのような違いが生じるのかを具体的に見ていきます。
検認が不要な遺言書がある
遺言書には3種類ありますが、「自筆証書遺言」で法務局で保管されているものや「公正証書遺言」は、家庭裁判所での検認手続きが不要です。この場合、相続手続きは比較的短期間で完了します。遺言書がある場合、遺産分割協議書を作成する必要もありませんので、その分早く手続きが完了します。また、検認や遺産分割協議書の作成についての費用もかかりません。
検認手続きや遺産分割協議が不要なため、迅速に預金の解約や不動産の相続登記などを進めることができます。このような遺言書がある場合、相続手続きのスピードはかなり早く進むことが期待されます。
検認が必要な遺言書がある
一方で、「自筆証書遺言」(法務局で保管されていないもの)や「秘密証書遺言」がある場合は、検認が必要です。検認のために、まず家庭裁判所に申し立てを行い、検認手続きが完了するまで約1~2カ月かかります。
検認が完了してから、ようやく預金の解約や不動産の相続登記などの具体的な手続きを進めることができるため、全体の期間が延びることになります。
遺言書がなく相続人が一人
遺言書がない場合でも、相続人が一人だけの場合は、比較的簡単に相続手続きを進めることができます。相続人が一人であれば、遺産分割協議を行う必要がないため、他の相続人との調整が不要です。
ただし、遺言書がない場合でも、相続財産の調査や相続人の調査は必要です。これらの調査は、同時並行で進めることで全体の期間を短縮することができます。
遺言書がなく相続人が複数人
遺言書がない場合で、相続人が複数いる場合は、相続手続きが複雑になることがあります。相続手続きには、相続財産や相続人の調査に加えて、遺産分割協議が必要となります。全ての相続人が合意しない限り、遺産分割は成立しません。
遺産分割協議が順調に進めば、相続手続きは約1カ月で完了することもありますが、相続人間で意見の対立が生じた場合は、協議が長引き、数年かかることもあります。
特に、遺産の分割方法に関して意見が一致しない場合や、裁判所による調停に発展することもあります。遺産分割調停は早くても半年~1年はかかると考えていただいた方が良いかと思います。
遺産を早く受け取れる制度と注意点
相続手続きが長期化する可能性がある場合でも、以下の制度を利用することで、遺産を早く受け取れる場合があります。
- 預貯金の仮払い制度
- 預貯金債権の仮分割の仮処分制度
ただし、これらの制度を利用する際には注意が必要です。他の相続人に無断で引き出すとトラブルになる可能性があり、また、後に負債が発覚した場合でも相続放棄ができなくなるリスクがあります。
預貯金の仮払い制度
預貯金の仮払い制度は、相続開始後に被相続人名義の預金口座が凍結された場合でも、遺産分割前に相続人が一定金額を引き出せる制度です。
2019年7月から、相続人は法定相続分の3分の1にあたる金額、または150万円のいずれか低い方の金額を上限に、単独で預金を引き出せるようになりました。この制度は、被相続人の入院費用や葬儀費用等で急ぎで多額の現金が必要になった場合に、相続人が対応できるように新設されました。
預貯金債権の仮分割の仮処分制度
預貯金債権の仮分割の仮処分制度は、遺産分割の調停や審判が進行中の場合に、預貯金の全額または一部を引き出せる制度です。上記の預貯金の仮払い制度を利用しても現金が足りない場合、この制度の利用を検討します。家庭裁判所に対して遺産分割の調停または審判の申立てが、時間や費用がかかるものの、預貯金の仮払い制度よりも多額の資金を引き出せる可能性があります。
まとめ
相続手続きは、財産の数や種類、相続人の数などによって大きく期間が変わります。通常、約2か月~6か月かかるとされていますが、場合によっては数年以上かかることもあります。スムーズに手続きを進めるためには、相続人全員が協力し、必要な書類を迅速に準備することが重要です。
また、預貯金の仮払い制度や仮分割の仮処分制度を利用すれば、早期に資金を受け取ることが可能ですが、利用にはリスクが伴うため、慎重に検討することが大切です。
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