未成年でも取締役になれる?何歳からOK?重要なポイントと知っておくべき注意点

「未成年の子供を会社の取締役にしたいが、何歳から可能で、どんな手続きが必要?」とお悩みではありませんか。結論として、未成年でも意思能力が認められる程度の年齢であれば、取締役になることは可能です。この記事では、未成年者が取締役に就任できるか判断する為の重要なポイントや、就任に必要な親権者の同意書といった書類、さらには必ず知っておくべき注意点までを網羅的に解説。未成年を取締役にする際の全ての疑問を解消します。
結論 未成年でも取締役になることは可能
結論から申し上げると、未成年者でも会社の取締役に就任することは法律上可能です。会社の経営に興味がある高校生や、家族経営の会社で後継者として期待されるお子様などが、実際に取締役に就任するケースは存在します。「未成年だから」という理由だけで、取締役になることを諦める必要はありません。
まずは、なぜ未成年でも取締役になれるのか、その法的根拠から詳しく見ていきましょう。
会社法に取締役の年齢制限はない
日本の会社のルールを定めた「会社法」には、取締役の資格について定めがありますが、そこに年齢の下限に関する規定は一切ありません。つまり、「〇歳以上でなければならない」という決まりが存在しないのです。
会社法第331条第1項では、取締役に「なれない」人(欠格事由)が定められていますが、その中に年齢は含まれていません。具体的には、以下のいずれかに該当する人は取締役になることができません。
項目 | 内容 |
---|---|
法人 | 法人は取締役になれません。取締役は自然人(個人)である必要があります。 |
特定の法律違反者 | 会社法、金融商品取引法、破産法などの法律に違反し、刑の執行を終えてから2年を経過しない者は取締役になることができません。 |
上記以外の犯罪を犯した者 | 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで、またはその執行を受けることがなくなるまでの者(執行猶予中の者を除く)は取締役になれません。 |
このように、年齢そのものを制限の対象とはしていません。このため、法律の条文上は0歳の赤ちゃんでも取締役に就任することが可能と解釈できます。
未成年者が取締役に就任できるか判断する為の重要なポイント2点
法律上に年齢制限はないものの、実務上は「意思能力」の有無と「印鑑証明書」が非常に重要なポイントとなります。それぞれ具体的に説明します。
ポイント1 意思能力の有無
意思能力とは、自分が行うことの意味や結果を正しく理解し、判断できる精神的な能力のことを指します。
取締役は、会社に対して善良な管理者の注意をもって職務を行う義務(善管注意義務)を負い、会社の重要な業務執行の決定に関与します。これらの重い責任を果たすためには、当然ながら意思能力が不可欠です。もし意思能力がない未成年者が取締役として行った契約などの法律行為は、後から無効と判断されるリスクがあります。
一般的に、意思能力が備わるとされる年齢の目安は以下のようになっています。
年齢の目安 | 意思能力の有無(一般的見解) | 取締役就任の可否(実務上の観点) |
---|---|---|
0歳~6歳程度 | 意思能力はないと判断されるのが一般的です。 | 取締役へ就任できません。 |
7歳~14歳程度 | 7歳から10歳程度で意思能力が備わってくると考えられる年齢です。 | 10歳以上であれば、取締役への就任が認められる可能性がでてきます。(法務局で個別に判断されます。) |
15歳以上 | 一般的に意思能力は十分にあると判断されます。 | 取締役としての職務を理解し、責任を負う能力があると見なされ、問題なく就任できるケースがほとんどです。 |
このように、法律上は年齢制限がなくても、取締役としての責任を全うできるだけの精神的な成熟度、つまり意思能力が実質的に求められるのです。特に低年齢のお子様を取締役に選任する際には、この点を十分に考慮する必要があります。
ポイント2 印鑑証明書
ポイント1をクリアした場合に、次に確認するのは、「印鑑登録をすることができる年齢か?」です。これは、取締役会を設置していない会社では、取締役に就任の登記の際に印鑑証明書の添付が求められる為です。印鑑登録は、原則として15歳以上の人が対象です。
その為、取締役会を設置していない会社では、15歳以上であれば取締役に就任することができ、取締役会を設置している会社では、10歳以上であれば取締役に就任することができる可能性がでてくるということになります。
未成年が取締役に就任するための手続きと必要書類
未成年者が取締役に就任する際の手続きは、基本的な流れは成人の場合と大きく変わりません。しかし、未成年者は法律上の行為能力が制限されているため、成人の就任時には不要な、親権者の同意書が必要となります。ここでは、具体的な手続きの流れと、必要書類について詳しく解説します。
基本的な就任手続きの流れ
会社の機関設計(取締役会設置会社かどうかなど)によって多少異なりますが、未成年者を取締役として選任し、登記を完了させるまでの基本的なフローは以下の通りです。このプロセス自体は、取締役が成人であるか未成年であるかによって変わるものではありません。
ステップ | 手続きの概要 | 主な作成・準備書類 |
---|---|---|
1. 取締役の選任決議 | 株主総会を招集し、取締役として選任する人物を決定する決議を行います。 | 株主総会議事録、株主リスト |
2. 就任の承諾 | 選任された未成年者が、取締役に就任することを承諾します。この意思表示を書面(就任承諾書)で残します。 | 就任承諾書 |
3. 登記申請の準備 | 法務局へ提出する登記申請書を作成し、議事録や就任承諾書、後述する未成年者特有の書類など、必要な添付書類一式を揃えます。 | 登記申請書、添付書類一式 |
4. 法務局への登記申請 | 会社の本店所在地を管轄する法務局に、取締役の就任登記を申請します。 | 3で準備した書類一式を提出 |
【関連記事】
「会社の役員変更登記のポイント|必要書類・手続き方法・よくあるミスを司法書士が解説」
未成年ならではの必要書類
取締役への就任は、会社と委任契約を結ぶという重要な法律行為です。民法では、未成年者が単独で有効な法律行為を行うことを制限しているため、その行為を保護者である親権者が同意していることを証明する書類が登記申請時に必須となります。
親権者(法定代理人)の同意書
未成年者が取締役に就任することについて、親権者(通常は父母)が同意していることを証明するための書面です。この同意書には、親権者全員が実印を押印する必要があります。
一般的に、同意書には以下の項目を記載します。
- 同意書を作成した日付
- 取締役に就任する未成年者の氏名、住所、生年月日
- 「上記の者が取締役に就任することに同意します」といった同意の文言
- 親権者(法定代理人)全員の住所、氏名
- 親権者全員の実印による押印
この同意書とあわせて、親権者全員分の印鑑証明書も添付します。
戸籍謄本
取締役に就任する未成年者の親権者であることを証明するため、戸籍謄本を添付する必要があります。
登記申請の必要書類のまとめ
- 登記申請書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 就任承諾書
- 未成年者の印鑑証明書(取締役会を設置していない会社の場合)
- 未成年者の本人確認証明書(印鑑証明書を添付しない場合)
- 親権者の同意書
- 親権者の印鑑証明書
- 戸籍謄本
- 委任状(代理人に登記手続きを依頼する場合)
【参考情報】
法務局:商業・法人登記の申請書様式
未成年を取締役にする際に知っておくべき注意点
未成年者を取締役に選任することは、後継者育成や節税対策など多くのメリットが期待できる一方で、法律上・実務上のリスクや注意すべき点を伴います。メリットだけに目を向けて安易に決定すると、後々会社経営に深刻な影響を及ぼしかねません。ここでは、未成年を取締役にする際に必ず理解しておくべき重要な注意点を解説します。
取締役としての法的責任を負う
最も重要な点は、取締役に就任すると、年齢にかかわらず大人と全く同じ法的責任を負うということです。「未成年だから知らなかった」という言い訳は通用しません。会社法で定められた取締役の主な責任は以下の通りです。
- 善管注意義務(善良な管理者としての注意義務):取締役は、会社の経営を委任された者として、社会通念上要求されるレベルの注意を払って職務を遂行する義務を負います。
- 忠実義務:取締役は、法令、定款、株主総会の決議を遵守し、会社のために忠実にその職務を執行する義務があります。自己や第三者の利益のために会社の利益を犠牲にすることは許されません。
- 第三者に対する責任:取締役は、その職務を行うについて悪意又は重大な過失があり、それにより、第三者に損害を与えたときは、その第三者に対して損害賠償義務を負います。
これらの義務に違反し、職務を怠った(任務懈怠)結果、損害を与えた場合、その取締役は会社や第三者に対して損害賠償責任を負います。未成年者本人に十分な資産がない場合でも、法的な責任そのものが消えるわけではないことを、本人および親権者が深く理解しておく必要があります。
未成年に関するよくある質問
ここまでの解説で、未成年でも取締役になれることや、その手続き、メリット・注意点についてご理解いただけたかと思います。この章では、さらに一歩踏み込んで、多くの方が疑問に思われる具体的なケースについてQ&A形式で詳しく解説します。
未成年でも代表取締役になれるのか
結論から言うと、未成年が代表取締役に就任することも法律上は可能です。会社法には取締役の年齢制限がないのと同様に、代表取締役についても年齢に関する規定は存在しません。
ただし、代表取締役は会社を代表して契約を締結するなど、極めて重要な権限と責任を持つ役職です。そのため、通常の取締役以上に、いくつかの現実的な課題や注意点が存在します。
まず、代表取締役として法務局に登記する際には、個人の実印と印鑑証明書が必要となります。日本の制度では、印鑑登録ができるのは15歳以上と定められています。したがって、15歳未満の未成年者が代表取締役に就任することは、手続き上、極めて困難です。
また、15歳以上で代表取締役に就任できたとしても、対外的な信用を得るのが難しく、事業運営に支障が出る可能性も考慮しておく必要があります。
会社設立時の発起人にはなれるのか
未成年が株式会社を設立する際の発起人になることも可能です。発起人にも法律上の年齢制限はありません。
発起人とは、会社の設立を企画し、定款の作成や資本金の出資など、設立手続きの中心的な役割を担う人のことです。株式を引き受けて出資するという行為は法律行為にあたるため、未成年者が発起人になるには、親権者(法定代理人)の同意が不可欠です。
前述のとおり、印鑑登録ができるのは15歳以上の為、15歳以上であれば本人の印鑑証明書を提出します。15歳未満の場合は、親権者が法定代理人として署名又は記名押印して定款を作成することができます。
定款認証における未成年ならではの必要書類の例
15歳以上の場合
・親権者全員の同意書
・本人と親権者全員の印鑑登録証明書
・本人と親権者全員の戸籍謄本
15歳未満の場合
・親権者全員の印鑑登録証明書
・本人と親権者全員の戸籍謄本
まとめ
本記事で解説した通り、会社法に取締役の年齢制限はなく、未成年でも取締役に就任することは可能です。ただし、意思能力は必要とされ、就任には親権者の同意書など特有の書類を用意する必要があります。後継者育成や節税といったメリットがある一方、本人や親権者が法的責任を負うこと、扶養控除の問題など、事前に知っておくべき注意点も少なくありません。未成年を取締役に選任する際は、これらの点を総合的に理解し、慎重に判断することが大切です。
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