相続税の申告が不要なケースは?必要かどうかの判断方法や注意点を解説
相続税の申告が必要かどうか、判断に迷う方も多いのではないでしょうか。原則として、相続税は、相続する財産が一定の基準を超える場合にのみ申告が必要です。
しかし、この基準や条件は複雑で、思い込みや見落としによって申告が必要だったケースを見逃してしまうことも少なくありません。
本記事では、相続税の申告が不要になる具体的な条件を明確にし、必要かどうかを判断する方法について詳しく解説します。また、相続税がかからなくても申告が必要なケースや、判断ミスを避けるための注意点もあわせて紹介していきます。
相続税申告不要の条件
相続税申告が不要なケースについては、具体的な条件がいくつかあります。相続税の申告は煩雑で手間がかかるため、事前に該当するかどうかを確認することが大切です。以下の条件に該当すれば、相続税申告は基本的に不要です。
- 相続財産が基礎控除額以下である
- 相続税がかからない財産のみを保有している
それぞれの条件について詳しく見ていきましょう。
相続財産が基礎控除額以下である
相続財産の合計額が基礎控除額以下である場合、相続税申告は不要です。基礎控除額は以下の計算式で求められます。
基礎控除額の計算式:3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
たとえば、法定相続人が2人の場合、基礎控除額は以下のようになります。
項目 | 金額 |
固定額 | 3,000万円 |
600万円×2人 | 1,200万円 |
基礎控除合計 | 4,200万円 |
したがって、相続財産が4,200万円以下であれば、相続税申告の必要はありません。この基準をもとに、相続財産を確認し、不要な手続きを省くことができます。
相続税がかからない財産のみを保有している
相続財産の中には、非課税とされるものもあります。例えば、以下のような財産は、課税対象に含まれません。
- 生命保険金や退職金の非課税限度額以内(500万円×法定相続人の数)の部分
- 墓地や墓石、仏壇、仏具
これらの非課税財産(詳しくはこちらをご確認ください。国税庁:No.4108 相続税がかからない財産)を確認し、相続財産の合計額から除外することで、相続税申告が不要となるか判断できます。
相続税の申告が不要かどうか判断する方法
相続税の申告が必要かどうかの判断は、主に以下の手順で行います。それぞれのステップを順番に行い、漏れなく確認していくことが重要です。
- 相続する財産をすべて洗い出す
- 法定相続人を全員把握する
- 基礎控除の額を計算する
それぞれのステップについて、具体的な手順を詳しく見ていきましょう。
相続する財産をすべて洗い出す
まず、相続する財産の全体像を把握することが重要です。財産の洗い出しを行うことで、課税対象の財産と非課税の財産が整理でき、申告が不要な場合も見極めやすくなります。以下は、主な財産の種類です。
- 現金・預金:銀行口座の預金残高
- 不動産:土地や建物
- 有価証券:株式や債券
- 生命保険金:非課税枠(500万円×法定相続人の数)を超える部分
- 死亡退職金:非課税枠(500万円×法定相続人の数)を超える部分
- その他:貴金属や骨董品などの高価な物品
洗い出しを行う際には、リスト形式で財産を整理すると漏れを防ぎやすくなります。また、各財産の評価額も確認し、課税対象に該当するかを明確にしておきましょう。
法定相続人を全員把握する
次に、法定相続人を確認することが大切です。法定相続人の数は基礎控除額に関わるため、正確な把握が求められます。法定相続人には以下のような優先順位があり、関係性に応じて相続の権利が決まります。法定相続人についてはこちらの記事で詳しく解説しています。「家族で話す前に知っておきたい法定相続分の基本|誰がどのくらい相続できるのかを徹底解説」
- 配偶者:常に法定相続人となります。
- 第一順位:子供:配偶者がいれば、配偶者とともに法定相続人となります。配偶者がいない場合は、子供のみが法定相続人となります。
- 第二順位:直系尊属(父母など):第一順位の子供がいない場合。配偶者がいれば、配偶者とともに法定相続人となります。
- 第三順位:兄弟姉妹:第一順位の子供及び第二順位の直系尊属がいない場合。配偶者がいれば、配偶者とともに法定相続人となります。
特に、養子や婚外子(法律上は非嫡出子といいます。)などの特別な事情がある場合は、注意が必要です。養子や認知された婚外子も他の子供と同様に法定相続人です。適切に把握することで、基礎控除額が正確に計算できます。
基礎控除の額を計算する
最後に、基礎控除額を計算します。相続財産が基礎控除額内の場合、相続税の申告は不要です。基礎控除額は前述したように以下の計算式で求めます。
基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
法定相続人の数 | 基礎控除の計算式 | 基礎控除額 |
1人 | 3,000万円 + (600万円×1) | 3,600万円 |
2人 | 3,000万円 + (600万円×2) | 4,200万円 |
3人 | 3,000万円 + (600万円×3) | 4,800万円 |
4人 | 3,000万円 + (600万円×4) | 5,400万円 |
相続税がかからなくても申告が必要なケース
相続税が発生しない場合でも、特例を適用するためには申告が必要です。この手続きを行わないと、特例が使えないため、本来納めなくて良い相続税を支払わなければならなくなる可能性があります。
例えば、配偶者が相続した財産のうち、1億6千万円までであれば相続税が課税されない「配偶者控除」や、事業の用または居住の用の宅地の減額の制度である「小規模宅地等の特例」を適用することで、申告を通じて税負担を軽減できます。注意深く確認しましょう。
以下ではこれらの特例についてさらに詳しく解説していきます。
申告が必要な4つの特例
以下の4つの特例を受けるためには、相続税の申告が必要になるため、該当するかどうかを確認することが重要です。
- 小規模宅地等の特例
- 配偶者の税額軽減(配偶者控除)
- 納税猶予の特例(農地等の納税猶予制度)
- 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例
ここで紹介するのは特例の一部であり、他にも申告をすることで適用できる特例がいくつかありますので、詳しく知りたい方は税理士に相談してみましょう。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、相続人が被相続人の居住用または事業用の宅地を相続する場合、評価額の最大80%が減額されるため、相続税の軽減が可能です。ただし、適用には一定の条件があります。
国税庁:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
配偶者の税額軽減(配偶者控除)
配偶者控除は、配偶者が相続する財産について1億6千万円まで非課税となる特例です。この控除により、配偶者が取得した財産に対する税額が軽減され、ほとんどのケースで申告税額がゼロになります。適用には相続税の申告が必要なため、配偶者控除を利用する場合は必ず申告を行うようにしましょう。
納税猶予の特例(農地等の納税猶予制度)
農地等の納税猶予制度は、農地を相続した場合に税額の納付が一定期間猶予される特例です。この特例の適用には、農地を相続した相続人が農業を行う必要がありますが、農業を継続して行っている限り納税が猶予されますので、一生農業を続けていきたい相続人にとっては、相続税が免除されるのと変わりがない為、メリットは大きいです。
国税庁:No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例
非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例
この特例は、中小企業の事業承継を円滑にするための制度です。この制度を利用することで、相続によって非上場株式を取得した場合、相続税の納税を猶予したり、場合によっては免除されたりすることが可能です。これにより、相続人が事業を継続しやすくなります。
国税庁:No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)
相続税の計算方法
相続税の計算は、基礎控除後の課税遺産総額に税率を掛けることで算出されます。以下に相続税の計算方法を具体的に解説します。
- 基礎控除額を控除した課税遺産総額を計算
相続する財産総額から基礎控除額を差し引きます。 - 1で計算した課税遺産総額を、法定相続分で割って、それぞれ計算します。
例)課税遺産総額が1億円で、法定相続人が妻と子の2人の場合
妻 1億×1/2=5000万円
子 1億×1/2=5000万円 - 法定相続分で割って計算した金額に、下記の税率を適用して相続税額を計算します。
妻 5000万円×20%(税率)-200万円(控除額)=800万円
子 5000万円×20%(税率)-200万円(控除額)=800万円
相続税:800万円+800万円=1600万円
財産総額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | 0円 |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
相続税申告の有無を判断する際の注意点
相続税申告を行う際には、税理士に相談することをお勧めしますが、いくつかの注意点を押さえておくと申告漏れや判断ミスを避けることができます。
- 財産を把握する際の注意点
- 各財産の評価額を算定する際の注意点
- 判断ミスで申告漏れがあるとペナルティを受ける
それぞれの注意点について詳しく解説します。
財産の把握する際の注意点
死亡時に被相続人が保有していた財産以外にも、相続税の対象になるものがあります。例えば、贈与額が110万円以下であれば贈与税がかからない暦年贈与という贈与の方法がありますが、死亡日3年以内(法改正があり、2024年1月以降の贈与については7年に延長されました。)の暦年贈与については、相続税の対象になります。
その他にも下記は、相続税の対象となります。
- 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税の適用を受けた場合の管理残額
- 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税の適用を受けた場合の管理残額
- 被相続人から、生前、相続時精算課税の適用を受けて取得した贈与財産
- 特別寄与者が支払を受けるべき特別寄与料の額で確定したもの
各財産の評価額を算定する際の注意点
相続財産に不動産が含まれている場合、その算定には注意が必要です。相続財産全体に占める割合も大きくなるため、不動産の評価額によって相続税の税額も大きく変わることがあります。特に土地の評価は難しく、専門家によっても変わることがあるため、慎重に依頼する税理士さんを決めることをお勧めします。
判断ミスで申告漏れがあるとペナルティを受ける
申告漏れや判断ミスによって、延滞税や加算税といったペナルティが科されることがありますので、注意が必要です。
延滞税がかかる場合(「納付期限の翌日から2か月を経過する日まで、年7.3%」「納付期限の翌日から2か月を経過した日以後、年14.6%」)
- 申告などで確定した税額を法定納期限までに完納しないとき
- 期限後申告書または修正申告書を提出した場合で、納付しなければならない税額があるとき
- 更正または決定の処分を受けた場合で、納付しなければならない税額があるとき
加算税がかかる場合
- 無申告加算税(期限内に申告をしなかった場合) 5%~15%
- 過少申告加算税(期限内に申告をしたが、修正申告や更正があった場合) 5%~10%
- 重加算税(意図的な財産隠し)35%~45%
まとめ
この記事では、相続税の申告が不要となる条件や、判断方法、注意すべき特例について詳しく説明しました。
相続税申告が必要かどうか迷う場合や実際に相続税の申告を行う際は、税理士に相談し、適切な手続きを行うことが大切です。税理士に相談することで、見逃しやすい特例の適用や、申告内容の正確性を確保できます。費用はかかりますが、結果として相続税額の軽減や申告手続きの円滑化につながるため、費用対効果の面でも検討する価値があります。
ミスを防ぎ、安心して相続手続きを進めるために、早めの対応を心がけましょう。
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相続手続きでお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。